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大腿切断・大腿義足(transfemoral amputation prosthesis/amputation)

大腿切断

概要

大腿切断は、何らかの原因により膝よりも上部で下肢を切断することである。基本的には骨盤の座骨結節よりも下のレベルで切断することを大腿切断と呼び、それ以上のレベルでは「股関節離断(座骨結節よりも高く大腿骨頭上部まで)」や「片則骨盤離断(大腿骨頭よりも高いレベル以降~仙椎まで)」などと呼ばれる。大腿切断では大腿義足が用いられる。股関節離断や骨盤離断では予後の活動性に乏しいが、大腿切断に関しては義足の装着によって高い活動性の確保が期待できる。切断部は生理的な緊張を保つような形で縫合が行われ、これにより適度な循環が確保される。加えて、各筋の等尺性収縮が可能になるため、ソケットでの懸垂が容易になる。

大腿切断では横切された骨にヤスリをかけ、丸みを持たせることでソケットの適応性を高める。皮膚は前方皮膚弁を後方皮膚弁よりもやや長く残存させるような切り方をする。

大腿切断で生じやすい変形

大腿切断では股関節の屈曲拘縮が生じやすい。加えて、短断端での切断では股関節の外転拘縮も生じやすくなる。原因としては、下肢自重による垂直方向へのけん引力が無くなることが考えられる。短断端の場合には、内転筋結節が切除されてしまうことが、股関節の外転拘縮につながる原因となっている。これらの変形は、後に義足を着用する際のチェックポイントとなる。

大腿骨切断の場所による名称

大腿切断は、切断する部分によって「短断端・中断端・長断端」の3つに大別される。基準となるのは座骨結節からの距離や大腿骨の長さを基準にした位置である。以下には各断端のチェックポイントを示す。なお、長断端以下のレベルは膝関節離断や下腿切断(短断端)に分類される。

 
名称チェックポイント
短断端座骨結節から8~10cmまで
中断端座骨結節から8~10cm以内よりも低いレベルかつ、大腿骨の中下1/3まで
長断端大腿骨の中下よりも低いレベルかつ、顆部よりも高いレベル

 

大腿義足

概要

大腿切断では下肢義足を用いることで高い運動性を確保することが期待できる。ここからは大腿切断における義足について紹介する。大腿切断で用いられる義足は「大腿義足」である。一見、当然のように感じられるが、仙腸関節離断では「半側骨盤切断用義足」、股関節離断では「カナダ式股義足」が用いられることなども併せて覚えておきたい。

短断端では股関節離断と比較するとソケットの適応感に優れているが、術後早期より拘縮予防の内転筋強化が必要となる。一方で、長断端の切断では遊脚制御機能を持った膝継手(インテリジェント機構搭載の膝継手)を取り付けることができない。同じく長断端ではターンテーブルをつけることができない。しかし、短断端よりも断端末荷重に優れている。

大腿義足では股関節・膝関節・足関節と3か所のアライメントや可動性を適切に評価・アプローチする必要があり、安定化の確保などが重要となる。体重の支持は、座骨が残存しているか否かによって大きく異なる。残存しているケースでは、比較的簡単に体重支持をすることができるが、残存していないケースでは内臓器なども含めて包み込むような使用をする必要があり、適合が難しくなる傾向がある。

現代では糖尿病患者の切断が増えており、患者のニーズも多様化している。要介護レベルの患者に対しては、介護予防・ADL動作など複数の目的を考慮し、装着の簡便さや軽量化を重視した処方が推奨される。

大腿義足の主な構成としては、ソケット・大腿部・膝継手・下腿部・足継手・足部となる。

 

大腿義足ソケット

大腿義足とソケットの開発は、過去の戦争と大きな関わりがあるとされている。戦争によって下肢の切断をした者に対するQOLの向上が主な目的であると考えられ、第一次世界大戦後より、大腿義足の利用が始まった記録が残されている。以前は差し込み式が広く流用されていたが、現在では吸着式が主流となっており、近年では吸着式四辺形ソケットや坐骨収納ソケット(IRCソケット)の処方が増えている。

ソケットに求められる基本的な要件としては「痛みが無い事」「義足を制御しやすい事」「外的情報や固有感覚の伝達性が良好である事」「装着感が良い事」の4つが挙げられる。義足と残存部分をつなぐ重要な役割であることから、良好な体重支持や装着感が良いことなどは、遠位部の動作を良好に保つうえで必須となる。

 

ソケットの懸垂機能

従来利用されていた差し込み式ソケットは、断端をソケットに差し込んで装着する比較的簡単な方法である。現在においても虚弱な高齢者や糖尿病疾患による感覚・視力低下を伴う患者には適用となるケースがある。差し込み式ソケットはそれ自体に懸垂機能がないため、ピストン運動が生じやすく、摩擦による皮膚炎などのトラブルが生じやすい。肩吊りや腰ベルトなどの懸垂装置を利用する必要があるため、身体の動きを妨げることが多く、義足制御に余分な力が必要であること・ADL動作に支障が生じやすいことが欠点である。

一方、四辺形ソケットや吸着式ソケットにおいては、ソケット自体に懸垂作用があるため、肩吊りなどの懸垂装置の必要が無い。その他、差し込み式ソケットにおける欠点も吸着式ソケットであれば解消することができる。

大腿義足における懸垂機能を評価する際には、ピストン運動が1cm以内に収まっていることが望ましいとされている。

ソケットにおける力の伝達性

ソケット断端にかかる固定力は関節モーメントをソケットを介して義足遠位部に伝達している。これにはソケットの適合性や装着感が良好であることが必須条件であり、筋・腱を正確に合わせることでより伝達性が高まる。断端が長いほど力の伝達性は良好であり、短断端の場合は断端固定が不十分であることやソケットがずれやすいことから伝達力は低下しやすい。

 

大腿義足における歩行

目的

大腿義足装着者に対して歩行訓練を行う目的は、二足地上生活(bipedal terrestrial)の獲得である。これには、方向転換・速度の調整・障害物を乗り越える・雑踏の中を歩くことなどが含まれる。つまり、義足を自由自在に操り、日常生活を営むという事である。まずは安定した立位保持を獲得することから始め、最終的には耐久性に優れた歩行を獲得することが望ましい。和式の生活に対応できるような義足の開発や、スポーツ分野での義足応用研究も加速しており、炭素繊維強化プラスチックなどの材料開発によって義足の軽量化も進んでいる。一概に正常歩行の獲得と言っても、多種多様な個人差があり、性差・年齢・習慣・住居などにも考慮する必要がある。

 

異常歩行分析・アライメント

大腿義足を装着して立位・歩行練習を行うと、異常歩行が出現することがある。義足に問題があるケースが大半であるため、その都度修正を行う必要があり、より生理的な歩行へと近づける努力を要する。このほか、筋力低下・関節拘縮などの身体的要因や不安感などの心理的要因が異常歩行の原因になることもある。切断部分が高位であるほど(短断端であるほど)アライメントの調整が難しい傾向がある。大腿義足における異常歩行では、立脚期における安定性や遊脚期でのコントロールが重要となる。下腿義足装着に関する異常歩行に関しては下腿義足を参考のこと。

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