大腿骨(だいたいこつ・Femur)/解剖・大腿骨骨折・股関節の靭帯
目次
大腿骨の概要
大腿骨(Femur/フィーマ)は、人体の下肢上部に位置している長管骨である。人間の骨の中では最も大きい骨であり、多くの下肢筋が付着している。大腿骨の骨頭部は骨盤と股関節を構成し、顆部(遠位端)は脛骨を膝関節を構成している。頚体角(頚部と骨幹部がなす角度)は約135度であり、約30度前捻(ぜんねん:前側にひねったように傾いている)している(=前捻角が30度)。代表的な部位としては、大転子・小転子・転子下部(骨折時)・内側上顆・外側上顆・内転筋結節・大腿骨粗線(殿筋粗線)・大腿骨頚部・骨頭部・骨頭窩などが挙げられる。大腿骨の骨頭部分は約3分の2が臼蓋部分にはまっており、残りの部分は臼蓋唇(きゅうがいしん)という出っ張りがカバーしている。頚部までは関節包が及んでおり、それ以降は関節包には覆われていない。
解剖学的構造
大腿骨には解剖学的に重要な部分がいくつか存在する。ここでは筋の起始部・停止部や、骨折が頻発する部分として頚部・大転子・小転子を紹介する。骨折の詳細は大腿骨骨折を参照。
①頚部
大腿骨頭と大転子の間の部分に位置しているのが頚部である。骨幹部よりも太さが細くなっており、大腿骨頚部骨折を受傷しやすい。高齢者においては骨粗鬆症の影響によって骨折する確率が高くなっている。大腿骨の頚部骨折は高齢者に多い四大骨折の内の一つに該当する(残りの3つは、上腕骨頚部骨折・椎体圧迫骨折・橈骨遠位端骨折である)。頚部骨折ではどのくらい大きく骨折線が及んでいるかなどの基準で予後が変化する。これらを評価する分類には、Pauwels分類(パウエルス分類)やGarden分類(ガーデン分類)などがある。
②大転子
大転子は大腿骨外側にある大きなでっぱりであり、体表面からも容易に触知することができる。大腿長および下肢長の測定では大転子がチェックポイントとなっている(棘下長では上前腸骨棘である)。起始・停止として、中殿筋・小殿筋が停止している。また、転子窩には深層外旋六筋の1つである外閉鎖筋・内閉鎖筋・梨状筋が停止している。加えて、同じく深層外旋六筋の大腿方形筋は転子間稜に停止している。大腿四頭筋の一つである外側広筋は大転子が起始部である。
③小転子
小転子は大腿骨上部内側に位置しているでっぱりである。大転子とはほぼ対称的な位置にあり、正確にはやや下方にある。大転子とともに前述した転子窩を構成している。両転子部をつなぐように骨折線が走る転子間骨折が生じることもあり、転子間骨折の分類としてはEvans分類(エヴァンス分類)などが用いられる。小転子には腸骨筋・大腰筋(腸骨筋と大腰筋は腸腰筋とまとめられることもある)などが停止している。
大腿骨の骨折
骨頭部と骨幹部の間には太さが細くなっている「大腿骨頚部」があり、骨粗鬆症の高齢者では骨折が頻発しやすい(頚部骨折)。この他に発生しやすい骨折としては、転子部骨折・転子下骨折・骨幹部骨折などがある。骨折の程度によって術式が異なり、γネイルやハンソンピン等の適応となる。大腿骨の骨折後は変形性股関節症の発生が懸念され、日本における変形性膝関節症の発生原因としては二次性(骨折などの理由が明確であるもの)が多い。関節包外骨折(転子部骨折・転子下骨折・骨幹部骨折)では骨癒合が比較的早く予後が良いが、関節包内骨折(頚部骨折など)では関節液が骨折部に入り込むことから骨癒合が遅れやすい。血流が阻害されて壊死が生じた際には人工骨頭の適応となるケースもある。
大腿骨に付着している靭帯
大腿骨上部には、大腿骨と骨盤を結んでいる靭帯がいくつか存在する。多くの強固な靭帯が大腿骨の骨頭部分を覆うように付着しているため、強い引きつけが実現されている。また、腸腰靭帯はY靭帯(わいじんたい)とも呼ばれ、人体の中で最も強い靭帯である。ここでは骨盤及び大腿骨に付着している靭帯の名称と、股関節の動きに関連する主な靭帯の緊張について紹介する。
※後述する靭帯の緊張で紹介しているものは赤字記載
骨盤・大腿骨後面
股関節後面では腸腰靭帯・後仙腸靭帯・仙結節靭帯・腸骨大腿靭帯・坐骨大腿靭帯を主に確認することができる。
骨盤・大腿骨前面
股関節の前面では主に腸腰靭帯・前縦靭帯・上恥骨靭帯・恥骨結合・恥骨弓靭帯・前仙腸靭帯・腸骨大腿靭帯(上・下)・恥骨大腿靭帯を主に確認することができる。(画像には名称を記載していないが閉鎖膜[肌色]も靭帯に分類される)
股関節の動きと靭帯の緊張
骨盤及び大腿骨に付着している靭帯は、それぞれが緊張(伸張)することによって股関節の動きを制限する働きがある。以下は股関節の動きと各靭帯の緊張を表に表したものである。屈曲動作ではどの靭帯も緊張しないことと、最も緊張しやすい動作及び靭帯の組み合わせはもちろんだが、旋回動作では大きな緊張は生じないことなども押さえておきたい。理学療法士・作業療法士の国家試験では頻出であるが、画像のまま覚えてしまえば正答できる問題が大半である。
++:最も緊張、+:緊張、–:弛緩(緊張しない)、空白:緊張/弛緩なし(そこまで重要ではない)