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筋委縮性側索硬化症(ALS/Amyotrophic lateral sclerosis)

疾患概要

筋委縮性側索硬化症/ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、運動神経のみの変性が特徴の疾患である。脊髄の側索および前索が主な変性・萎縮箇所であり、病変部位に応じた症状が出現する。(側索には錐体路、前索には下位運動ニューロンが通っている)これらの特徴より、筋萎縮性側索硬化症(ALS)では運動機能の障害は見られるものの、自律神経機能の障害は生じないことが大半である。

さらに球麻痺症状を呈するケースも見られ、原因として脳神経のうち運動神経線維を含む「第Ⅳ(滑車神経)・Ⅹ(迷走神経)・Ⅻ(舌下神経)脳神経」が病変部位と考えられている。加えて、「第Ⅴ(三叉神経)・Ⅶ(顔面神経)脳神経」も障害されやすく、咀嚼筋および顔面の筋群に麻痺が生じやすい。

肝となる部分は「運動系」への影響が大きい反面、「感覚系・自律神経系」への影響は少ないという事である。

 

病態・症状

脳神経の病変

脳神経の萎縮による影響としては球麻痺症状が中心となり、その他は該当する脳神経障害が出現する。症状としては、第Ⅳ・Ⅹ・Ⅻ脳神経病変による構音障害・嚥下障害、第Ⅻ脳神経病変による舌の萎縮・線維束性収縮、第Ⅶ脳神経病変による顔面筋の麻痺、第Ⅴ脳神経病変による咀嚼筋麻痺などがある。舌の筋委縮では舌の外側が薄くなるケースが多く、舌にシワができ表面の凸凹が著明となる。舌においても線維束性収縮が観察される。

脊髄側索の病変

脊髄側索の変性では上位運動ニューロン障害による症状が出現しやすい。代表的なものには「腱反射の亢進・クローヌス・痙性麻痺・病的反射の出現」などが挙げられる。

脊髄前索の変性

脊髄前索の変性では下位運動ニューロン障害による症状が出現しやすい。代表的なものには「筋萎縮・線維束性収縮・四肢の筋力低下」などが挙げられる。手の筋委縮はALSの初期症状として出現しやすく、母指球筋の萎縮によって巧緻動作(手の細かい運動)ができなくなる猿手がしばしばみられる。所見として、指球の盛り上がりが失われることから判断可能である。

筋電図所見においても安静時から線維束電位を観察することができ、運動時(随意収縮時)には高振幅の波形を呈する。

 

初期症状

ALSの初期症状には四肢の筋力低下が要因となるものが多い。代表的なものとして「手指巧緻性の低下・躓き・軽度嚥下障害・軽度構音障害・物が重く感じる」などが挙げられる。初期においてはALSの主症状である筋力低下が軽度であることも多く、徒手筋力検査(MMT)を実施しても異常が見られないケースがしばしば見られる。

 

ALSにおける陰性症状

ALSにおいて病変部位となるのは、「第Ⅴ・Ⅶ・Ⅳ・Ⅹ・Ⅻ脳神経」と「運動ニューロン」である。そのため、基本的にはその他の部位には障害が起こらず、前述したように感覚神経・自律神経・錐体外路系・小脳症状は見られない。職種を問わず医療系国家試験には頻出であるため、問題の回答時は注意が必要である。

このように、ALSにおいて出現しない症状のことを陰性症状と呼び、「眼球運動の障害なし・感覚障害なし・褥瘡なし・膀胱直腸障害なし」はALSの四大陰性症状という。自律神経が障害されないことから血流は保たれていると考えられており、褥瘡は生じにくい。

 

病理学的所見

脊髄の病理組織においては、運動ニューロン前角細胞の脱髄や変性が観察される。筋群萎縮と呼ばれる、筋線維が塊として萎縮してしまう現象が見られ、ALSの特徴的な病理学的所見として扱われる。神経学的所見・筋電図検査などで診断可能な場合には原則、筋生検は行わない。

 

症状の進行

初発症状としては前述したように四肢の筋力低下(主に遠位から始まる)・線維束性収縮・指球筋の萎縮などがある。はじめは「疲れやすい・力が入りにくい・物が重く感じる」などの訴えを主訴とすることが多い。1年から2年で下肢の筋萎縮・痙性が顕著となり、介護保険制度の利用などを開始するケースが多い。3年ほどが経過すると、嚥下障害や構音障害が出現し、ADL動作にも支障が及ぶ。4年~5年が経過すると全身の筋萎縮や呼吸筋の障害が生じ、人工呼吸器の導入コミュニケーションボードなどを用いた特殊な対応が必要となる。ALSはその多くが呼吸筋の麻痺によって発症から5年程度で死亡する。現在では呼吸障害に対してNPPV(非侵襲的陽圧換気療法)が用いられることもある。

 

治療

現時点ではALSに対する根本的な治療は確立されていない。そのため、対処療法が主な治療となり、投薬(リルゾール/リルテック など)やリハビリテーションを実施して各症状に対応する。筋力低下に対しては関節拘縮や筋委縮の予防を目的としたストレッチ・関節可動域訓練などが中心となり、嚥下障害に対しては口腔ケア・食事指導・嚥下訓練などが実施される。末期の呼吸筋麻痺においては、呼吸理学療法・喀痰吸引・NPPV・人工呼吸器の導入などが検討される。

いずれにおいてもコミュニケーション方法の確立やメンタルケアなどは必須であり、本人のみならず家族や周囲にも病状説明・ケアを怠ってはならない。場合によっては患者が人工呼吸器の導入を拒むケースもある。

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